住宅の性能には様々な要素があります。耐震・構造、耐火・防火などはその最たる例ですが、実際生活する上で「住み心地」に直結する温熱環境は、重要視せざるを得ない項目です。
温熱環境を左右するのが断熱材です。目標性能は設計時(断熱材選択時)に決まってしまうのですが、施工によってもその断熱性能が変わってきます。
建売住宅・分譲住宅などで行っている新築インスペクションでは、断熱材の施工状況を大きなチェック項目としています。
断熱材の工法と種類
断熱材の工法は、大きく外張り断熱(外断熱)と充填断熱(内断熱)に分けられ、使われる断熱材も工法に応じて変わってきます。
外張り断熱(外断熱)
ボード状の断熱材が使われます。建物全体を包み込むので、断熱材の性能がそのまま発揮されます。気密性も確保しやすい工法です。
ただし、つなぎ目の処理や開口部の納まりなど注意しなければならない点があります。
充填断熱(内断熱)
ボード状断熱材のほか、繊維状・現場発泡タイプの断熱材も使われます。構造材(木材など)との取合いや断熱材の充填不足、気密性の確保が注意点です。
各種基準・規定の断熱材施工検査
断熱材の施工状況は公的検査では行いません。
設計図と施工時の断熱材が同一かを確認することはあるかもしれませんが、設計時の性能確認が主なもので施工状態を確認するものではありません。
だからこそ、改めて断熱材の施工状態を確認することが求められるのです。
断熱材の充填不足
断熱材の施工には施工する人の技術と気遣いが必要とされます。施工者や管理者の判断基準で仕上りが決まってしまうからです。
大まかな基本ルールはあるものの、数字で判断できるものだけではありません。だからこそチェックが大切です。
施工者の技術不足
現場発泡断熱材は、その吹付けに仕方によって厚さが変わります。下の写真は発砲断熱材の表面を拡大したもので、凹凸している様子が確認できます。
必要な厚さが設計で指定されているので職人さんはその厚さ分は最低吹付けますが、無駄に吹付ければ材料代がかかってしまうので当然ギリギリ指定の厚さにしようとします。
しかし、技術が伴っていないと厚みがまばらで必要厚さに満たない箇所が出ることがあります
施工者の気遣い不足
しかし、技術不足は手間・時間をかけることでリカバリーすることができます。
冒頭の写真は現場発泡断熱材の写真ですが、よく見ると足元の充填が不十分で隙間があります。
丁寧に施工する、きちんと確認するという気遣いがあれば、手直しすることは十分にできたはずです。言い方を変えれば、気が付くかどうかも技術に含まれることかもしれません。
微々たるものと言えばそれまでですが、後から思わぬ不具合現象が生じる可能性や、その積み重ねが建物全体の性能につながります。
窓周りの狭い部分や形状が鋭角になっている隙間は、断熱材の充填が不十分になる可能性が高くなります。
配管の裏側なども隙間ができやすい箇所です。
木材に金物が貫通する部分は、熱が伝わるので断熱補強しますが、意図が曖昧だと施工も曖昧になります。
次はバルコニーの雨水排水管が天井裏に配管されている箇所です。
冷たい冷水・冷気が通ることにもなりますので、防音も兼ねてグラスウールで断熱補強してもらうことにしました。
室内だけでなく、外部では現場発泡断熱材が防水シートを圧迫してしまい、せっかくの外壁通気層をふさいだり、外壁自体の膨らみにつながる可能性も出てきます。
グラスウール施工の注意点
断熱材としてグラスウールを施工する場合は、なおさら注意が必要です。
グラスウール自体は安価で性能が良いものもありますが、大工さんによって作業の出来映えが大きく異なる断熱材です。
グラスウールの施工が不十分になりやすい要因
- 現場発泡断熱材と異なり膨らんで隙間を埋める作用が無い。
- 断熱材の施工に関して公的な検査がされない。
- 定尺のものを現場に合わせて手加工するので、きちんと施工するには手間=作業工賃がかかる。
- 隙間ができやすい。(変形部、鋭角部、幅が狭い箇所、金物周り、コンセント周り)
- つなぎ目の処理の問題。
グラスウールの施工による具体的な施工リスク
可能性として次のことが考えられます。
- 気密性が確保されない。
- 断熱性能が十分に発揮されない。
- 内部結露が起きる。
繰り返しますが、だからこそグラスウールを施工する場合はなおさら注意が必要なのです。
防湿フィルムの施工
グラスウールを使用した場合でも、気密性を確保するには防湿フィルムを室内側に施工することが有効とされています。
日本では一般的に袋状のフィルムに入った断熱材が流通しており、そのフィルムが防湿フィルムとして代替されています、
しかし、長らく断熱材・防湿フィルムが軽視されてきたため、正しくグラスウールの施工がされていないことがいまだに多くあります。
つなぎ目や端部細部、破れたフィルムの気密テープ補強もあまりされていません。
気流止めの施工
日本には在来工法と呼ばれる一般的な木造住宅の建て方があります。
在来工法の木の組み方(床組み・天井組み)では、構造上床下の空気が天井裏に抜けてしまいます。外壁なら断熱材があるので空気が通りにくいですが、部屋間の界壁では空気が素通り状態です。
冬場を考えると、冷たい風が壁内を通り抜け、壁の温度を下げます。それはつまり寒い部屋になるということです。
この空気の流れを防ぐため、気流止めという施工をします。小さな工夫ですが、長く住み心地につながる大事なポイントです。
しかし、新しい工法が採用されたり従来の工法が改善された今でも、気流止めの施工をしていない住宅メーカーはまだあるようです。
新築インスペクションのご紹介
新築住宅にはこれら多くのチェックポイントがあります。
もちろんハウスメーカー・工務店が施工監理業務を行う訳ですが、住宅の購入者・建て主にとっては不十分に感じる場合があると思います。
そんな時に、第三者が購入者・建て主の側に立って建物の確認をするのが、新築インスペクションです。詳しくはサービス提供ページをご覧下さい。
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